人間の測りまちがい〈上〉―差別の科学史 (河出文庫)

人間の測りまちがい〈上〉―差別の科学史 (河出文庫) の詳細

この本は、科学と言うものが意外に当てにならないことを雄弁に語っています。例えば優生学や頭蓋計測学といった怪しげなものが、当時は最先端の、客観的な科学として認められていたことや、統計の結果が、その統計を集めた学者によって「計り間違えられて」いったことを、これでもかというくらいに精緻に書いています。また、知能テストで測られるIQは、人間の生得的知能とイコールではない、IQテストを作ったビネーも、そんなことは一言も述べていない、と何度も本書で語られていますが、これも私の心の中でストンと落ちるように、腑に落ちました。確かに、戦後のニュルンベルグ裁判でナチス要人に行われたIQテストの結果は、彼らの「活躍度」と比例するものではありませんでしたし、歴史上の偉人が、その他大勢の名もなき庶民やちょっとした秀才より圧倒的にIQが高かったという証拠はどこにもありません。であるのならば、「IQテストやそれに類似するテスト」の結果を根拠として、「知能」は高い確率で遺伝するという、遺伝学の常識も怪しくなってきます。なぜならIQ＝生得的知能ではないのですから。（もしIQ＝生得的知能であったなら、ニュルンベルグ裁判で行われたIQテストの結果はあんな結果にはなってなかったでしょう。）（ザイス・インクヴァルトやフランツ・フォン・パーペンが、アルベルトシュペーアより上という事はありえないはずです）前からうすうす気がついていましたが、ここにはっきりと気が付かせてくれた点で、この本は私にとって価値のある本でした。